解 説
1959年に菊田一夫作、春日野八千代演出・主演により上演された名作で、1997年に
レビュー化し麻路さきら星組により上演された作品。インド北部カシミール地方のダ
ル湖の湖畔を舞台にした、貴族の娘と騎兵大尉とのラブ・ロマンス。
ストーリー
インド最北部、インダス河の流れるカシミール。毎年夏になると、世界各国の大使
・公使や富豪たち、それにインド諸州の王族らが、避暑にカシミール・ホテルまでや
ってくる。今宵は、カシミール・ホテルにおける今夏最後の舞踏会。
ベナレスの領主マハ・ラジア、チャンドラ・クマールの孫娘で、やがてデリー大公
ゴヤール王家の姫の女官長になる身の上のカマラも、祖母インディラ、従兄弟クリス
ナ、アルマ夫妻らとともに、この地でひと夏を過ごし、明日にはクリスナの城のあるハイダラバードへ発つことになっていた。
カマラはこの夏、騎兵大尉ラッチマンと恋を語り合う仲になっていた。舞踏会でも
当然のように踊る二人の姿は、王族や各国の大使・公使、そして新聞記者たちの注目を集める。
カマラがハイダラバードへもラッチマンを伴うつもりであることを知ったインディ
ラは、二人の噂が夫チャンドラやゴヤール王家にまで聞こえ、カマラと家の名誉が失
われることを恐れ、カマラにここできっぱりラッチマンと別れることを命じる。極度
の身分の差のために、いつかは別れなければならないと自覚していたカマラは、心な
くもラッチマンに冷たくあたり、ラッチマンは深く傷つき去っていく。
そこへ憲兵隊長ジャスビルが、パリの国際警察からの通報だと言って、ラッチマン
という騎兵大尉は、実は世界に悪名を轟かせている前科十二犯の詐欺師ラジエンドラ
のことで、この男は各国の著名人の女と関係を持ち、この男とのスキャンダルゆえ
に、これらの人々は地位を失い、恥をさらした例も少なくなかったと告げる。
これを聞いたクマール一家は驚き、急ぎラッチマンを呼び戻して詰問したところ、
ラッチマンは確かに自分がラジエンドラであると認めた。インディラはラッチマン
に、黙ってこの国から逃げるよう懇願するが、ラッチマンは逆にインディラに対し、
カマラとの事を口外しない条件として、カマラと一夜を送ることを求めた。インディ
ラは、この危機はカマラ自身の力で解決するしかないと、ラッチマンの要求を受け入
れた。ラッチマンはダル湖の湖畔へとカマラを誘い出す。
一方、フランスから帰国したチャンドラとカマラの妹リタは、港町からハイダラバ
ードへと向かっていた。リタは、パリで恋仲になったペペルという男を密かに連れて
きており、婚約を許してほしいとチャンドラに打ち明ける。
チャンドラは、ペペルがインド人とフランス人の混血であることを聞いて強く反対
するが、リタとペペルの計にかかり、しぶしぶ付き合いだけは認める羽目に陥ってしまう。
ハイダラバードに入城しようとしたチャンドラは、行列を見守る群衆の中にラッチ
マンの姿を認め、彼に近づいて話しかける。チャンドラは、かつてパリである事件に
巻き込まれたところをラッチマンに助けられたことがあったのである。チャンドラ
は、信頼するラッチマンにペペルの事を相談するが、ラッチマンはその名前に聞き覚えがあった。
そうして、チャンドラに伴われたラッチマンは、ハイダラバードの王宮で再びカマラと顔を合わせた......。